●words from SAYOKO
●第一章 強くなるために! アフリカ縦断一人旅
●第二章 心に引きこもりながら世界にツッコミ
●第三章 清潔好きが受けたカルチャーショック
●第四章 すごくありがたく、すごく困る親切
●第五章 旅の成果
 
   
第三章 清潔好きが受けたカルチャーショック

山口 中国はいかがでしたか。
作者 ぼくが中国に入ったのは去年の夏で、反日デモが盛り上がってようやくひと段落したくらいの時期でした。さすがに用心して、情報を集めながら慎重に動いていたんですけど、実際入国してみると、意外なことに反日感情というか日本人差別みたいなものは全く感じなかったです。むしろ日本人もアメリカ人もドイツ人も区別なく、外国人はみんな平等に見下されているような印象を受けました。余計悪いんですけど。さすが中華思想の国というか。中国語を話せないと、無視、嘲笑、シッシッと追い払われる、は日常茶飯事で。インドと中国では、だいたい2日に1回は「人生で腹の立ったことベスト10」に入る出来事が起こって、いつも怒りを宿の壁や発行しているメールマガジンにぶつけていましたね。おかげで、史上類を見ない暴言の多いメルマガになってしまったのではないかと思います。バカとかカスとか死ねボケとか書いてあるメルマガはさすがに自分のもの以外では見たことありません……。
山口 中国人同士ではどうなんですか? やっぱり揉め事が多いのかな?
作者

多かったです。彼らは身内意識みたいなものはすごく強くて、近い範囲の人間には凄く優しくてフレンドリーな面を見せるんですけど、そうでない相手には結構容赦ないんですよ。列への割り込みは当たり前、お互い譲らないので交通事故もたくさん見かけましたし、バスに乗ると乗客と料金係の怒鳴り合いでおちおち寝ることもできません。というか、バス料金で揉め事が起こるのがよくわからないんですけど。旅先で同じ部屋に泊まっていた旅行者は、バスに乗っているとヤギを3匹連れたおじさんが乗り込んできて、ヤギは大人料金だと主張する料金係と子供料金だと主張するおじさんで2時間くらい揉めていたそうです。結局お互い歩み寄って、ヤギ3匹で大人2人分の料金になったらしいんですけど。そもそもヤギを乗せていいかどうかの議論が先だと思うんですけどね。まあ、子ヤギだったら子供料金でいいような気もしますが。
ぼくが中国ですごくイヤだったことがあるんですけど、彼らはどこでもツバを吐くんですよ。レストランとかホテルのロビーとか、どこでもおかまいなしに。バイクタクシーといって、バイクに運転手と2人乗りする形のタクシーがあるんですけど、一度そのバイクタクシーに乗っていたら走行中に運転手がぺっぺっと左右にツバを吐き始めたんです。ぼくはその運転手につかまって乗っているわけで、ツバがぼくの膝先3cmをかすめて行くんですよ。もうこのままでは被爆も免れないと思って、途中からツバが吐かれるたびに左右に傾いて避けていたら、バランスが崩れて不安定な走行になりかなり危なかったです。

山口 でも昔、私たち日本人も街でツバや痰を平気で吐いていたでしょう。駅には痰壺があったらしいし。でもそれはみっともないから止めましょう、ということで東京オリンピックの頃から吐かなくなったの。ツバを吐き捨てるのは悪い、というのは西洋文明に影響されてのことだと思う。でも確かに、ツバを吐くという行為が、他の文化の人にとってどういう意味合いがあるのか自覚しておいた方がいい、というのは確かにあるかもしれませんね。それを変える変えないは別にしても。
作者

たしかに、衛生観念というのも文化によって違いますしね。中国では、ツバもそうですし、子供なんかは道路とか建物の中、例えばデパートのフロアなどでも平気で大小便をしたりしてるんです。でもそれは他人の迷惑を考えないという文化ではなく、人として自然な生理現象みたいなものにみんなが寛容という文化なんだな、と途中から思うようになりました。特に小さい子供なんて、おもらしをしたり我慢できないのは当たり前なんですよね。旅の終わりの頃、デパートでまた子供が大小便を床に垂れ流していたんで、もうぼくも中国の人たちのように寛容になろう、中国の人たちのように広い心を持とう、このくらい普通のことじゃないか、と思っていたら、デパートの掃除のおばちゃんが飛んできて「なにやってんだこのクソガキっ!! ここはトイレじゃないんだよっ!!!」とモップで子供をしばきまくっていました。とりあえず、中国の文化を理解するのは僕には無理だということだけは理解できました。。

山口 中国のトイレ事情はよく聞きますね。公衆トイレにドアがないって聞いていますけれど、やっぱりそうでしたか?
作者 そうなんです。ドアがないんですよ。衛生面がどうのこうの言う以前の問題ですね。壁も仕切り程度にはあるんですけど、腰というか、イチモツが隠れる高さまでしかなくて。アフリカからずっと各国のトイレを見てきましたが、衝撃度は中国がトップでした。駅や安宿の公衆トイレはもちろん、外国人が利用するような宿のトイレでもドアがないところがあるんですよ。もちろん地元の人たちは慣れてるでしょうから、中国人と一緒になる分にはまだいいんです。でも外国人同士、他のツーリストと一緒になると、恥ずかしすぎて出るものも出ない。誰かの使用中のシーンを見てしまうと、その後その人を見かける度にトイレでの姿を鮮明に思い出してしまうんですよ。さすがにあの文化だけは全く理解できません。もうドアも壁も無いんだったら、この際ぜひ男女の区別も無くして欲しいところです。
ただ、ぼくにとってはドアがない方が楽な部分もありました。潔癖症なものですから、公衆トイレを使う時って毎回ドアノブに触るのにものすごい覚悟がいるんですよ。ばい菌に汚染されているドアノブには触りたくないけど、触らないことにはドアが開かない、という激しいジレンマにトイレに行く度に陥るんです。それが中国の場合は、いきなり溝の上に行ってズボンを脱ぐだけ、使用後もズボンを履いて出て行くだけです。これで手の純潔は守られるという。
山口 みんな公衆トイレで世間話をしているんでしょう。それって日本の大衆浴場みたいな交流の場になっているということかしら。トイレっていちばんリラックスできる場所だったりするし。お風呂に近い感覚なのかも。日本の公衆浴場も江戸時代は男女混浴で、それが西洋文明が入ってから男女別になり、さらに個室になって、最近では他人に裸を見せるなんてとんでもない、という人もいるくらいだから。
作者

文明とか文化の違いって大きいですね。自分たちを育てた文化の違いによって、何を恥ずかしいと思うかの感覚も変わってくるというか。恥ずかしいという感覚は本能的なものかと思っていましたが、環境によって変わるものなんですね。
ちなみに、ドアつきの、個室になっているトイレでも、不思議なトイレがありました。
中国では三国志の遺跡を回っていて、そのせいでガイドブックにも地図にも載っていないような地方に行くことが多かったんですけど、そういうところでは時々謎のトイレがあって。そこは招待所といって安宿のトイレだったんですけど、ちゃんとドアも壁もある個室だったんですよ。ぼくは朝方その前の流し台で歯を磨いていたんですけれど、別の中国人の宿泊客が洗面所に入ってきてトイレのドアを開けたら、中で一人リキんでいるのがモロに見えたんです。もうその時点でぼくは目が点で、ただ吐き気をおぼえながら呆然としていたんですけど、当然開けた方の人は「あ、すいません!」とドアを閉めるもんだと思うじゃないですか。でもそうじゃなくて、その人は、そのまま個室の中に入っていくんですよ!! 中で人がリキんでいるのに!! これはもう、絶対に見てはいけないものを見てしまったのではないか、と足がすくんで動けなかったんですけど、壁の影に隠れて後で2人とも出て行ってからこっそり中を覗いてみたら、個室の床に便器が2つ並んでいるんです。ひとつの個室の中に便器が2つ。何のための個室なんだと。密室に2人並んでふんばるくらいなら、ドアも壁も無いオープンスタイルの方がずっとマシです(涙)。



    
 



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