●words from SAYOKO
●第一章 強くなるために! アフリカ縦断一人旅
●第二章 心に引きこもりながら世界にツッコミ
●第三章 清潔好きが受けたカルチャーショック
●第四章 すごくありがたく、すごく困る親切
●第五章 旅の成果
 
   
第四章 すごくありがたく、すごく困る親切

山口 潔癖性の作者さんとしては、何か事前に準備していったものはありますか?
作者 ウェットティッシュくらいは持って行きますけど、そんなに特別な物は準備しません。なにしろ、そういう潔癖症だったり、細かいことを気にしすぎる情けない自分を鍛え直しに行く旅なので。
山口 あ、そうか、自分が強くなるためだものね。菌に対しても、暑さ寒さに対しても。
作者

そうです。そこを考えると、海外にいるのに自分に優しい状況を作ってしまったら意味がないんです。できるだけ文明を持ち込まずに、現地のそのままの環境で過ごすように心がけました。ただ、ぼくは蚊がすごく苦手なんで、30巻入り蚊取り線香と、キンチョールLサイズ1本、電池式の虫除け機、スキンガード、現地調達のマット式蚊取り、ムヒ、蚊帳だけは常備していましたね。本当は、蚊に何十カ所さされようと気にならないような豪快な人間になりたかったんですけど、部屋に1匹でも蚊の気配を感じると抹殺するまで絶対に眠れないんです。使える道具を全て駆使して、なんとしても絶滅させていました。強い相手の場合は、蚊取り線香の外側内側の両端に火をつけて二段攻撃したり。煙に巻かれながら、根性で勝負していました。蚊と自分とどちらが先に死ぬか、みたいな。

山口 アフリカって窓に網戸がないんですよね。蚊が平気かと言えばやっぱり彼らも苦しんでいて。
作者

窓が閉まっていればいいんですけれど、安宿はたいていその窓さえ割れていたりするんです。閉めようが閉めまいがどんどん蚊が入ってくるという。ひどい時は6畳程の部屋に20匹くらい蚊がいて、殺しても殺しても割れた窓から入ってくることがありました。その時はもう蚊取り線香を火事になるくらいの勢いで大量に焚いて、蚊と心中する覚悟で煙の中で耐えました。マラリアもすごく怖くて。アフリカのマラリアは致死率がすごく高いらしいんです。刺され慣れている現地の人は大丈夫なのかと思ったんですけど、そんなことはなくて普通に地元の人達も死にまくっているらしいんです。だから蚊だけは、血まなこになってキンチョールやら線香やらベープやらでひたすら殺していました。

山口 それだけ持っていくわけだから、すごい荷物ですね。
作者 荷物は、前に抱えて、後ろに背負って、手にも下げて、ピーク時は合計30kg近くあったと思います。5分も歩けば限界です。
山口 それであの距離を移動されたんですよね。バスや鉄道を乗り継ぎながら。
作者

移動は大変でした。最初から荷物は多いんですけど、旅をしているとどんどん増えていきますし。例えばトイレットペーパーなんかは基本的に一巻き持ち歩いていて、無くなりそうになると買い足すんです。でも旅をしているとこだわりができてしまって、なんというかペーパーの尻触りや紙質、長さ、芯のあるなしなど、好みにうるさくなるんですよ。だからいい品を見つけた時はここぞとばかりに買い溜めて、一番多いときは16ロールのトイレットペーパーを持ち歩いていた時があります。ほとんど商人でしたね。

山口 ひ弱な都会っ子がそういう環境にいきなり行って。食べるもので困ったこととかはありませんでしたか。
作者 一人っ子なので、好き嫌いも多いんですよ。いや、一人っ子なのでかどうかは知りませんが、とにかくそんな人間なので、親切にされたときにどう応えるかが難しかったです。
アフリカにスーダンという国があるんですけど、砂漠の中を2泊3日で走る電車があって、そのコンパートメントで現地の人と一緒になったんですよ。そうしたら、その人がわざわざぼくのために、ゆで卵の殻を剥いてパンに挟んでサンドイッチを作ってくれたんです。もう感動してしまって。なんていい人なんだろう、と感謝してふと見ると、ゆで卵が砂で真っっっっっっ黒なんですよ! 卵サンドが、砂が降りかかってイカスミサンドみたいになってるんです。でも人の親切を無にすることはできないから、食べないわけにはいかないじゃないですか。かといって、砂まみれの卵なんて食べられるわけないんです! ぼくの中では、サンドイッチといったら、コンビニで包装されて売られているような、塵ひとつ付いていないような清潔なものなんです。砂入りなんてありえない。でも、かといってスーダンの人の親切心を踏みにじるようなマネは……と、もうどうすればいいか、ひたすら悩まされましたね。
山口 その話はホームページに書かれていましたよね。すごくリアルに気持ちが伝わってきました。
作者

パキスタンでは、フンザというところで道を歩いていたら、おばさんが家に来い、と呼んでくれたんです。そこで家族みんなに囲まれて、チャイやパンをご馳走になったんですが、もう、ひとつ食べ終わるとどんどんおかわりを足してくれるんです。もういらない、とジェスチャーで合図しても、遠慮するなと次から次へ。終いには食が進まないぼくが不満だと思われたみたいで、よしそれなら、とおばさんが裏からチーズを持ってきてくれたんです。それはもう大仰に丁重に大切に保管してあって“家のお宝”という感じのチーズを。それで一口食べたら、これが……もうマズいのマズくないのって尋常じゃないくらいマズいんです! マズさがウリのチーズじゃないかというくらいで。そんなものをこのぼくが食べられるわけないじゃないですか。でも、その横で子供たちが「いいなぁ、お宝チーズを食べられるなんて。私たちなんか近づくだけでどやされるのに」という感じで見ているんですよ。まさかこれを「マズいからいらない!」なんて言えるはずもなく。もうどうしたらいいかひたすら悩んで……。そういうときは、好き嫌いなく何でも食べる、人間的に強い人がうらやましくなったりします。本当は少食のぼくみたいな人間の方が経費がかからないでいいはずなんですけど、なぜか全世界的に男はたくさん食べるタイプが好まれる傾向にありますよね。これは納得できません。

山口 ゲームがお好きだった、とおっしゃってましたけれど、ドラクエのロールプレイングな感覚と、旅ってかぶったりしますか?。
作者 それはよく感じます。ゲーム上でフィールドを旅して、街を見つけて入っていく、という感覚がわからなかったんですけれど、外国に行くとそのまんまなんですよ。アフリカなんか何もない草原をトラックの荷台に乗って10時間くらい走っていくと、いきなりポツンと町や村が登場したり。もうドラクエそのまんまの感覚です。町に入ると宿屋や教会なんかも揃ってますし。セーブできたら楽だろうなと思います。
ぼくなんかは現実世界で主人公になれないタイプですけど、でもドラクエの世界では「勇者さま!」ってみんなが慕ってくれる。それがふだん日陰にいる存在としては気持ちいいんです。それでゲームに夢中になったんですけど、その感覚はホームページを作る感覚に通じるものがあるかもしれません。ホームページの日記なんかは、自分を主役にしたちょっとした物語を作るような感覚がある。特に旅行記ってそのまんまだと思うんです。
旅先ではふだん日本では経験できないようなトラブルやアクシデントが起こって、それは本当は決して珍しいことじゃないんですけど、でもその渦中にいると自分はすごい冒険をしたヒーロー&ヒロインのような気分になってしまうんです。そういう話って自慢したいじゃないですか。まあ聞く方はウンザリだと思うんですけど、これだけ旅行記サイトやブログが盛んなのは、そこで自分を主役にしたストーリーを、ドラクエをプレイするような感覚で作っているというのがあると思うんです。ネットの世界、少なくとも自分のサイトでは誰でも主役になれる。そこから本を出したりテレビに出たりと、現実の世界に出て行く人もいるじゃないですか。だからネット上の日記やブログというのは、ぼくたちに与えられた最後のチャンスみたいな一面もあると思います。引きこもりの敗者復活戦というか。


    
 



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