●words from SAYOKO
●第一章 強くなるために! アフリカ縦断一人旅
●第二章 心に引きこもりながら世界にツッコミ
●第三章 清潔好きが受けたカルチャーショック
●第四章 すごくありがたく、すごく困る親切
●第五章 旅の成果
 
   
第五章 旅の成果

山口 帰ってきて何か自分の中で変わったな、と思うことはありますか。
作者 それがほとんど無いんですよ(涙)。結局、アフリカとアジアを回って帰ってきても、潔癖性も好き嫌いもなくならず、相変わらず弱々しいままで。でももし改造に成功して、理想どおり趣味はフットサルとサーフィンとかいう爽やかな人物になっていたら、ぼくの旅行記は全くウケなかったと思います。旅行記を面白くすることと、当初の目的であった自分を強くするということとは、両立ができないということに気付いて。だから、最終的になんのために旅に出たのかよくわからなくなってます。
山口 そこが面白いんですよね。引きこもりがそこまでの飛躍をする、ということが面白いんだと思う。
作者

自分の性格に諦めがついたところはありますね。諦めというか開き直りというか。ハードな環境に身を置けば強くなると思って旅に出たんですけど、アフリカを縦断しても強くならなかったから、もう今後何をやっても変わらないだろうなぁ、と。アフリカ縦断よりハードなことって、そうそう無いじゃないですか。肉体的にはもちろん、精神的にも、旅先だととにかくひたすら困ることが多いんです。アフリカなんかでは、「今日の昼メシどうするか」を考えるだけでも、3日分くらいの精神力を使う。ましてや何か大きなトラブルが起きた時なんかは、生まれてから今まで30年近くで経験したすべての困り具合を足したくらい、1日で困るんですよ。他の人はわかりませんが、少なくとも今まで平穏に生きてきたぼくには、海外でのトラブルはもう「人間というものはここまで困ることがあるのか」と新しい発見をするくらい困るものなんです。生まれて初めて外国を一人で旅している時に盲腸にかかったり、アフリカ縦断を始めてすぐに全財産を盗まれたり。その上警察に助けを求めてもジンバブエ語しか通じなくて、挙句の果てには警官に「とりあえず呪術師に犯人を占ってもらえ」とか言われる始末で。何から困ればいいか困るくらい困ることが多かったです。

山口 100万円近くの全財産を盗まれたんですよね。あのときよく乗り越えられたな、と思いました。
作者

乗り越える以外に道が無かったので。他の道は全て絶望に向かって伸びていたので、仕方なく乗り越えるという道を選択しました。でもそういうトラブルをいくつも乗り越えたからといって、別に苦しみに免疫ができたわけでもないんです。そのあと新しいトラブルがやってくると、また0から新鮮にものすごく困るんですよ。初心を忘れないという意味ではいいことかもしれませんが。
だから、もうこれはこれでいいんだろう、と。以前のぼくは強くなりたいとか格好よくなりたいとか、今の自分を変えてこんな人間になりたい、という願望があったんですけれど、そういうのが一切なくなりました。今の自分が自分なんだと。

山口 確か旅も終わりのほうで中国での日記を読んでいたら、悟られたかな、と思った瞬間があるんです。玄奘三蔵の境地じゃない? というメールをお送りして。どこか高い位置に行ったというか、変わられた瞬間があったように感じた。今はわからないかもしれないけれど。
作者 たしかそのメールをいただいたのはもう旅も終わりの頃だったと思います。中国の西安にいました。当時小夜子さんは名乗ってくださらなかったんで、帰国して正体を知った時にはびびってイスから落ちましたが……。でもぼくは何か悟ったんでしょうか。自分ではわからないので、何を悟ったのか教えていただく機会があればと思います。
ただ、悟りと関係あるかはわかりませんが、幸せ、と感じることは増えました。ふとした日常にメチャメチャ幸せを感じるとか。今日、帰ったら寝るところが決まっていて、明日も明後日もここにいられるというのがすごく嬉しい。
あとは、少し自信のようなものは出てきたかもしれないです。引きこもりで根暗ということにマイナス・イメージがあって、自分に対して自分で偏見を持っていたりしたんですけど。でも、ホームページを通じていろんな方に共感いただいて、少しでも支持されている、喜んでもらえているのだったら、もうこれでいいのかな、と。
山口 たぶん、それはもうすでに、引き籠もっていないんですよ。相変わらず家とネットに籠もっているかもしれないけれど、引きこもりながらも社会に接触する、そいういあり方もあるんだとみんなに伝えていると思うので。
作者

新しい形の引きこもりなんでしょうか。同じインドアな生活でも、見えないところに以前との違いがあったり。そうだといいんですけど……。でも、しばらく旅に出ていたがために、日本の引きこもり生活が3倍くらい楽しく感じられるんです。インターネットが常時接続だとか、ダウンロードが早いとか、日本語が打てるとか、そういう慣れてしまえば些細なことがアフリカ帰りだと半端じゃなく素晴らしく感じて。その幸福感のおかげで、帰国してからはよけい引きこもり生活に加速がついたようです(号泣)。

山口 これからも旅は続けられるんですか?
作者 できれば、もうずっと日本にいたいです。ぼくはよく旅行記に「旅なんて嫌いだ」と書いているんですけど、みんな冗談だと思うみたいなんです。でも、本当なんですよ。ぼくにとって旅は辛いものでしかなく、海外旅行よりもインターネットやゲームでの旅の方が何倍も楽しいんです。
山口 そうね、作者さんにとて旅は楽しむものじゃなくて、強くなるために自分を崖から落とすようなものだから。でもきっと、またどこかの時点で自分を叩き直さなくちゃいけない、となると、また旅に出るのかもしれませんね。
作者

うーん、かもしれませんね。日本だと、人と会わずにずっと部屋の中にいてもふつうに暮らしていけちゃうじゃないですか。でも、引きこもってばかりだと、いざ違う世界に出て行こうとした時にどこかで痛い目を見ると思うんです。もちろん肉体的にも堕落していきますし。腹が出てきたり(涙)。すでに、今のぼくはもうバッグパックを背負って歩けないと思うんですよね。鍛えるのには時間がかかりますが、堕落するのはほんとうに早い。
だからそういう自分がマズいな、なんとかしなきゃな、と思ったら、またどこかへ鍛え直しに行くかもしれないです。



   
 



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